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「アベ」が「アホ」なわけ:浜矩子「アベノミクスの真相」


日頃率直な物言いで知られる経済学者の浜矩子女史が、「アベノミクス」を「アホノミクス」と言い換えて、世間の失笑を買ったのはつい最近のことだが、その折、「アベ」がどんなわけで「アホ」になるのか、得心のいかない人もいたことだろう。そういう人たちのために、女史自らが「アベ」の「アホ」たる所以を解説してくれた本がある。「アベノミクスの真相」と題した本だ。文字の数はそんなに多くないし、わかりやすいときているので、読むには手ごろな本だと思う。

「アベノミクス」は三本の矢からなると言われる。金融緩和、財政出動、成長戦略だ。この三つについて、女史はそれぞれ、「アホ」ぶりを暴いているというわけだ。

まず、金融緩和について。日銀の黒田新総裁をはじめとした、いわゆるリフレ派の人々を、女史は「チーム・アベ」と呼んでいる。シティの紳士たちのシンボルはソフト帽だそうだが、この人たちには野球帽が似合うと女史は言う。別に野球が「アホ」なスポーツだというわけではないのだろうが、少なくともこの人たちは金融政策のプロパーたるシティの紳士とは違って見えると言いたいのだろう。

この人たちは、リフレ派と見做されているようだが、それは全く違うと女史は言う。リフレというのは、縮んでしまった風船をもういちど膨らますことをいうが、この人たちは、縮んだ風船はそのままにして、別の風船を膨らまそうとしているだけだ。その風船とはバブル風船であり、それを膨らませているのは根拠なき熱狂の毒ガスだ。その結果何が起こるかと言えば、資産インフレと実物デフレの同居という最悪の事態だ、といって、女史はチーム・アベのアホな騒ぎぶりを痛烈に批判するのである。

次いで、財政出動について。アベノミクスは国土強靭化計画で景気回復が望める、といっているが、それは昔のばらまき政策への復帰をカムフラージュしているだけだ。今や、公共事業に景気対策や成長エンジンとしての役割を期待するのは時代錯誤だ。アベノミクスはレジーム・チェンジという言葉が好きなようだが、彼らの目指すのは「アンシャン・レジーム」への復帰のように見える。

三本目の成長戦略。自民党の政権公約や1月に発表された緊急経済対策などを読む限りでは、実に華々しい文言が手当たり次第に並べられているが、それらを通じて骨格となる思想が見えてこない。ただやみくもに、高度成長時代の幻影を追い求めているかのように感じさせる。結局は、二本目の矢と同様、過去に向けて放たれようとしているのではないか。

こんなわけで、アベノミクスについての女史の批判には厳しいものがある。そこで、女史の批判を念頭におきながら、アベノミクスの今までの効果についてふりかえっておくのも、無駄ではあるまい。

アベノミクスが登場して以来、株高と円安の傾向が続き、それにつられて、日本経済に対する明るい見方が強まったのは事実だ。しかし、ここへきて、株価は急速に反落し、アベノミクスで上がった分が帳消しになりそうな勢いだ。一方、アベノミクスが予定していなかった長期金利の上昇と言った事態が生じている。円安だけは、堅調なようであったが、ここ数日は再び円高傾向が復活しそうな様相に変っている。

ということで、アベノミクスの効果は一時的なものに終わりそうなのに対して、長期金利の上昇が定着すると、日本のギリシャ化を心配しなければならないようなことにもなりかねない。もしかしたら、実体経済はデフレのままで、金融バブルだけが踊ってはじけたということにもなりかねない。




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