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小野善康「景気と国際金融」


小野善康氏は国際金融の分野でもユニークな見解を展開している。ここでも氏は、主流派経済学が想定している前提が実態とはかけ離れていることを指摘しながら、議論を展開する。以下その議論を「景気と国際金融」(岩波新書)によって、追って行こう。

従来の主流派の経済学は、国際金融を経常収支の流れを中心に考える。経常収支が黒字であれば円高、赤字であれば円安になる。つまり経常収支が黒字であればドルがたまって、ドルを円に交換しようとする需要が高まるから、円の対ドルレートが高くなる。逆に赤字であれば、ドルが減って、円をドルに交換しようとする動きが強まるから、円の対ドルレートが低くなるというわけである。

これは経常収支の不均衡が為替レートの変動によって調整されると考える立場といえるが、氏は、為替レートの決定には、経常収支の流れだけではなく、日米間の金融資産の金利差も介在すると考える。

アメリカの金利が日本のそれよりも高ければ、アメリカの金融資産を買うことで日米金利差に相当する利益を期待できるが、しかしその利益も、円高が進行すれば帳消しになってしまう。

ドル建て利子率と円建て利子率の間には次のような関係がある。

  ドル建て利子率=円建て利子率+円の対ドル上昇率

つまり、日米間に金利差があれば、それを調整するように為替レートが変動する。そうでなければ、金利差があるところでは、高い金利の商品は常に安全ということになり、それへの需要が限りなく大きくなる。そんなことはありえない事態だし、実際にそうはならない。上の式でいえば、右辺と左辺が等しくなるように、為替レートが作用するわけである。

経常収支の流れはフローとして、その結果もたらされる資産はストックとしてとらえられる。そして「適正な経常収支を実現するフロー調整と、金利格差を埋めるストック調整とを反映しながら、適正な為替レートが探られる・・・現実の為替レートの動きは、金利差調整と云う趨勢的な動きと、経常収支調整と云う短期的な動きが、渾然一体となって現れているのである」と氏は主張する。

であるから、「日本の金利が低く米国の金利が高ければ、ドルの方が有利だから、ドルに需要が集中して円安ドル高になる」という説は馬鹿げた主張ということになる。もともとドル資産の金利が日本のそれよりも高いところに、更に円安ドル高が加われば、その資産価値は金利+ドル高分となり、そのため圧倒的にドル資産が有利になり、円資産を持つものは誰もいなくなるだろう。実際にはそんなことはない。そういう場合には、ドル高になるのではなく、円高になることを通じて、両国資産の価値が拮抗するように働くのである。

次に、従来の経済理論は、有効なデフレ対策を提言できなかったように、国際金融の面でもデフレを扱い兼ねていると氏は言う。

従来の経済理論では、物価下落によって金融資産の実質的な価値が増大し、消費が刺激されるという効果(資産効果)が前面に出されていた。失業は短期的には存在しても、価格調整や為替レート調整によって解消され、売れ残りもなくなり、完全雇用が実現されると考えている。つまり供給が需要を生み出すという、供給側サイドの考え方である。

この考え方によれば、日米間で需要が日本側に傾けば円高メカニズムが働いて、日本製品への需要の偏りが是正される。逆の場合には逆のプロセスが進行する。こうして、「世界中で作られた各々の製品が、世界中の人々によって過不足なく需要される時、物価と為替レートの調整が完了するというわけである」

しかしこの考え方は、デフレの資産効果だけに注目し、デフレによる買い控え効果は考慮にいれていないと氏は批判する。

デフレが生じるのは、人々が物よりもお金を重視することの結果であり、その背景には、物あまりになって人々の消費需要が減退している事実があるというのが氏の基本的な考え方だ。

たしかに資産効果が働かないわけではないが、すこしばかりお金の価値が上がって、その分豊かになったからといって、ひとびとが財布のひもを緩めるとは限らない。ひとびとに財布のひもをゆるめさせるのは、買いたいと云う気持をおこさせる品物が存在することである。

結局、消費の水準が絶対的に落ちていることが不況の原因であり、デフレはその兆票であるに過ぎない。国内レベルでの消費水準の提言は輸出によってカバーしようということになるが、輸出が行き過ぎて経常収支が異常に黒字になれば、円高圧力が働いて輸出にはブレーキがかかる。

国際的なレベルで消費水準が落ちて需要が縮小するとどうなるか。どこかで失業が発生せざるをえない。その場合、「どこかの国の消費意欲が特に衰えていれば、その国の経常収支が黒字化し、通貨高が起こって、その国に失業が集中する。すなわち、失業は自国の消費意欲不足が原因で起こるのであり、自国通貨高は、単にその結果に過ぎないのである」

このように氏は、今の日本を覆っているデフレ、円高、失業の三重苦について、その原因を日本の消費意欲不足に求めているわけである。つまり国際経済の流れも、需要側の視点からとらえなおそうということだ。




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