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リーマン・ショックから一年:マネー資本主義は変わったか


この日(9月15日)はリーマン・ショックから一年。あのショックが引き金になってアメリカはもとより世界中が深刻な不況に陥った。それを教訓に、行き過ぎたマネーゲームをもたらしたアメリカの金融システムに対する疑問が深まり、資本主義経済の再構築が議論されてきた。金融システムに対して節度あるパフォーマンスを誘導するための規制の導入はその最たるものだ。

ところが金融規制を始めとする改革の枠組みが十分に整わないうちに、アメリカの金融市場には再びマネーゲームの兆しが現れ始めていると指摘されている。オバマ大統領もこの傾向を憂慮し、金融規制改革の速やかな実施を改めて訴えた。

いったいどのような動きが起きているのか。実情をNHKが取材していた。

まず金融市場に巨額の金が戻ってきている。一時は損失の拡大を恐れた投資家が金融市場から資金を引き上げていたものが、再び戻ってきたのだ。その背景には景気の底打ちがある。大方の経済分析は、不況は今年の夏ごろには収束したと見ており、それを裏付けるように株価も上昇している。一時は6000ドル台まで落ちたものが、最近では9000ドル台まで回復した。

戻ってきた金を元手にして、新たな金融ビジネスも生まれた。死亡債 Death Bond と呼ばれるものはその象徴的な事例だ。これは死亡保険金を受け取る権利を証券化したものだが、人の死は景気の変動に左右されず、一定の利益を確実に手に出来ることを謳い文句にしている。

ヘッジファンドによる不動産への投資も再び活発化している。価格が大きく下落した今こそ、買いのチャンスというわけだ。NHKがインタビューしたヘッジファンドの社長コーエン氏は、今回の金融危機は一時的には混乱をもたらしたが、長い目でみればなんと言うこともないと豪語していた。彼らにとっては、マネー資本主義の流れは、金融危機によって食いとめられるものではないということらしい。

こうした動きにオバマ政権は危機感を募らせ、金融規制改革案の成立を急いでいる。改革の柱は、マネーゲームの報酬たる巨額の成功報酬(ボーナス)に歯止めを掛けることだ。これに対して、経済界はいっせいに反発している。

反発の理由は、世界の金融市場におけるアメリカの優位が、規制の強化によって失われるというものだ。いまやヨーロッパやアジアも含めて金融センターをめぐる戦いが激化している。そんなときにアメリカだけ規制を強化すれば、金融センターの地位を規制が緩やかなほかの国に奪われてしまうという理屈だ。

彼らにいわせれば、自分たちがもうかればアメリカももうかるということらしいが、実態は必ずしもそうはなっていない。最悪な状態を脱出し、景気が上向いてきているといっても、10パーセントをこす失業率が示しているように、景気の恩恵は国民の間に広くいきわたっていないのが現状だ。これをとらえて Jobless Recovery という言葉も使われている。

実際アメリカの雇用不安は深刻なようだ。雇用不安は消費の減少に結びつき、その分将来に備えて貯蓄しようとする傾向を強めている。

アメリカ人は稼いだものは即座に使い、足りないところは借金してでも消費にまわすという行動パターンが顕著だった。それが変わりつつある。その結果消費市場が縮小して、実体経済がなかなか上向かない。

いま起こりつつあるマネーゲームの復活は、実体経済に支えられていない、蜃気楼のような現象なのではないか。




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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2013
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