知の快楽 哲学の森に遊ぶ
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タレス:最初の哲学者


今でも大学の哲学史の授業では、そもそも哲学なるものはギリシャの賢人タレスに始まると教えているのではないだろうか。

タレスは紀元前7世紀末から6世紀の前半にかけて、小アジアのイオニア地方にあるギリシャ人の植民都市ミレトスに生きていた。同時代人のソロンなどとともにギリシャ七賢人の一人に数えられている。文献による後付を求めようにもないので、その学説の詳細については、よくはわかっていない。にもかかわらず、世界最初の哲学者たる名誉に輝いているのには、アリストテレスの影響がある。

アリストテレスは「形而上学」の中で、哲学とは知を愛することであるが、知の中でも、ものごとのそもそもの始まり、つまり「アルケー」に関する知こそが根源的なのだとした。しかして最初に「アルケー」について深い思索をしたのはタレスだったといったのである。

「タレスは、あの智恵の愛求(哲学)の始祖であるが、水がそれ(アルケー)であるといっている。(それゆえに大地も水の上にあると唱えた)そして、彼がこの見解を抱くに至ったのは、おそらく、すべてのものの養分が水気のあるものであり、熱そのものさえもこれから生じまたこれによって生存しているのを見てであろう。しかるに、すべてのものがそれから生成するところのそれこそは、すべてのものの原理(アルケー、始まり・もと)だから、というのであろう。」(出隆訳、岩波文庫版)

このようにアリストテレスは、タレスこそが智恵の愛求(哲学)の始祖であるといっている。智恵とは何か。むつかしいテーマだ。往昔のギリシャ人たちにとっては、世界を世界たらしめているそのこと、つまり世界の根源とは何か、そのことにかんする智恵こそが真の智恵であった。タレスはそのことについて、初めて真剣な思索を始めた人として、記憶されるべく人物なのである。

このほかに、タレスの足跡に関するものは、ほとんど伝わっていない。ただ、タレスはエジプトに旅行したことがあり、その地から幾何学を学んで、ギリシャ人たちに持ち帰ったといわれている。

タレスはまた、天文学にも造詣が深かったともいわれている。アリストテレスは「ポリチカ」の中で、タレスの天文学に関する逸話を紹介している。

彼は哲学者として知られていたが、常々貧乏であったので、人びとから哲学などは何の役にも立たないと揶揄されていた。それに対して、金儲けがいかにたやすいことであるかを証明するために、彼は天文学の知識を利用した。ある年、星の観察によって翌年はオリーブの豊作になることを予見した彼は、オリーブ油を作る機械を買い占めることによって、大儲けをしたのである。

また、ディオゲネス・ラエルティオスは次のような話を伝えている。(加来彰俊訳、岩波文庫版)

「彼は或る時星を観察するために、老婆を伴って家の外に出たが、溝に落ちてしまった。そこで大声で助けを求めたら、その老婆はこう答えたというのである。タレス様、あなたは足下にあるものさえ見ることがおできにならないのに、天上にあるものを知ることができるとお考えになっているのですか、と」

七賢人の一人としてのタレスには、次のような逸話が伝えられている。

あるとき猟師がトリプースという黄金の鼎を吊り上げた。その鼎が誰に帰属するのが相応しいか、アポロンの神託を伺ったところ、智恵の最も優れたものに属するという答えが返ってきた。そこでその鼎はタレスに与えられたというのである。もっとも、この話には後日談があって、鼎は多くの智恵あるものの間を行き来した挙句、最後にはアポロンそのものに奉られたということである。

先にも述べたように、タレスの思想を叙述した書物は何一つ伝わってはいないが、ディオゲネス・ラエルティオスは、タレスの金言とされるものを伝えている。(岩波文庫より)

―およそ存在するもののなかで、最も年古りたるものは神なり、神は生まれざりしものなるがゆえに
―最も美しきものは宇宙なり、神の作りしものなるがゆえに
―最も大なるものは空間なり、あらゆるものを包含するがゆえに
―最も速きものは知性なり、あらゆるものを貫き走るがゆえに
―最も強きものは必然なり、あらゆるものを支配するがゆえに
―最も賢きものは時なり、あらゆるものを明るみに出すがゆえに





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