知の快楽 哲学の森に遊ぶ
HOMEブログ本館東京を描く英文学ブレイク詩集仏文学万葉集漢詩プロフィール掲示板


日本国債はいつ暴落するか




NHKスペシャルが特集していた番組「日本国債」を興味深く見た。いまでは磐石の信用力を誇るといわれる日本国債だが、その信用がいつまでも続く保証はない。実際に国・地方合わせた日本の政府部門による借金は1000兆円、そのうち日本国債の割合は700兆円あまり、国の一般会計予算の8年分に達する。こんなに巨額の借金をしている国は、先進国では日本以外どこにもない。

こんな状態がいつまでも続くわけがない。このままだと、いつかは破たんする日がやってくる。その時日本国債は大規模に売られて価格は暴落し、利率はうなぎ上りに上昇するであろう。つまり、日本もギリシャの二の舞にならないとは限らないのだ。その日を睨んで、日本国債の暴落で一儲けしようと企むヘッジファンドが手ぐすね引いて待っている有様だ。番組はこういって、国債の歯止めない発行に警鐘を鳴らしていた。

たしかにいまの日本国債の置かれている状況は特殊な性格のものかもしれない。普通の経済理論からすれば、GDPの2倍にも上る国債を、低利率で発行できていることは、奇跡と言うに近い。そんな状況がいつまでも持続するのが不思議なのだ。では、日本が国債発行に支障をきたすような事態は、いつやってくるのだろうか。それは、正確には予言できない、番組はこういって、将来予測の困難さを強調するのみだ。

しかし、待てよ。それではいくらなんでも不見識ではないのか。国債が無制限に発行できないのは明らかなのだから、つまり国債を際限もなく発行し続ければ、いづれ市場による正常価格での受け入れが不可能になるのだから、どうした事態が起これば、日本国債の破綻、すなわち価格の下落と利息の上昇が起こるのか、シミュレーションできないわけはない。それをしないのは、経済学者たちの怠慢というべきではないのか。

そこで、専門の経済学者でもない筆者が日本国債破綻のシナリオについて云々するのは差し出がましいとは思いつつ、専門家がなかなかわかりやすい説明をしてくれないので、自分なりにさまざまなシナリオを考えてみた。

まず、日本国債の買い手がなくなる事態。国債を買ってくれる人がいなくなれば、発行価格が下落したり、そのパラレルな現象としての利息の上昇が起こる。これは確かなことだ。それで、国債を買ってくれる人はいつなくなるのかを予測できれば、国債破綻のシナリオが見えてくる。

ところで、日本国債の購入者は、いまのところ国内が70パーセントを占めている。一時はこれが9割にも達していたのだが、さすがに最近では、海外からの購入が増えて来たと言うことだ。これらの買い手は、今の所、金を他で運用できない事情から、日本国債を買っているというふうに考えられる。だから、日本国債以外に有利な運用先が現れれば、そちらの方に資金をシフトすることは十分に考えられる。これは、国内、海外を問わず、国債購入者について一般的にいえることだ。

つぎに、国内の購入者に限ってみると、国内における余剰資金の存在額が国債購入の原資になることはいうまでもない。ところが、これには自ずから限りがある。(海外資金をいちおう脇へ置くと)政府は国内の資金の規模を超えるような額の国債を発行できるわけにはいかないのだ。こうした資金は、これまでは国民の貯蓄意欲の高さなどの日本的な要因によって、非常に豊富であったが、それ自体に限度があるほかに、今後は高齢化にともない、余剰資金を食いつぶしていくような時代に入っていく。すなわち、いままで国債の消化を支えてきた最大の受け皿である国内の資金、これが消耗していくことが最大のネックになってくるわけである。

以上は、中長期的な見通しを踏まえたシナリオである。国債の暴落にはそのほかに、短期的な事情によるものもある。そのなかの最大のものは、金利の上昇である。たとえばインフレによって物価が上昇すれば、それは金利の上昇をももたらす。金利の上昇は当然国債の利率にも反映する。というわけで、インフレが起こると、国債の利率が上昇し、発行コストが高くなる事態が生じるわけだ。場合によっては、金利の支払いだけで政府の予算が食いつぶされたり、あるいはそれでも足りなくなったりする事態が生じ、いわゆるデフォールトの危機につながることは、ギリシャなどの事態が証明しているところだ。(こんなことになるのは、国債の規模があまりにも巨大化したためだ、国債の発行規模がもっと小さければ、インフレによる金利負担はそんなに耐えられないものにはならないだろう)

国内のインフレ以外にも、短期的なシナリオは考えられる。今現在日本国債が世界的な人気の対象となっているのは、ほかに運用できる機会が少なくなっている事の反作用としての側面がある。だから、そのような機会が生じれば、投資家たちは日本国債に金を固定している意味はなくなるわけだ。そうしたシナリオにつながる要因はいくつもあるだろう。

こんなわけで、日本国債の暴落をもたらす要因はいくもある。それらが単独で働く場合もあれば、複合的に働く場合もあるだろう。それ故、それぞれのケースについて綿密なシミュレーションを行い、国債暴落といった最悪の事態を生じさせないように努力する。それが良心ある経済学者と、責任感を持った政治家たちのすることではないか。筆者にはどうも、そう思えるのである。(映像はNHKから)




HOME経済を読む次へ






作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2014
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである