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安倍・黒田氏は何もしていない:伊東光晴氏のアベノミクス批判


アベノミクスのおかげで株高・円安が実現し、日本経済が俄に活性化したという言説がまかり通っているが、実はそうではない。これらはいずれもアベノミクスとは関係のない現象であり、かりに民主党政権がそのままつづいていたとしても起きていたことだ、と老壮の経済学者伊東光晴氏が断罪している。安倍・黒田の両氏は、実は何もしていない。彼らがいうところのアベノミクスの内実は空虚そのものだというのである。(「世界」8月号)

まず株価。株価の上昇は昨年11月13日から始まっている。政権交代の起こる前からである。その上昇の要因を分析してみると、海外投資家による日本株の買い越しが主な要因である。つまり、投機資金が日本の株式市場に流入したことの結果であり、アベノミクスとは何の関係もない。

次に円安。世界中の資金が日本の株式市場に流れ込んでくるということは、円に対する需要を生む要因になりこそすれ、円安の要因にはならない。それなのになぜ円安が進んでいるのか。氏はこう問いを発したうえで、日本の通貨当局による為替介入があるに違いないと推測する。

為替介入は、改めていうまでもなく、外国の非難を招くものである。ところが今回は、非難を受けずに為替介入するチャンスが生まれた。アメリカもヨーロッパ諸国も景気対策のために大幅な金融緩和を行っている。これは事実上の為替操作といってもよい。だから、日本が為替操作を行っても、それを非難できる筋合いはない。これに加えて、日本が円売りドル買いを行いつつ、そのドルでアメリカ国債を買ってくれればなおさら文句をいう筋合いはない、ということで、かえって円安を助長するような状況が生じていた。通貨当局はそれを利用して大胆な為替操作に踏み切った、というのが氏の推測だ。

こんなわけで、安倍・黒田氏がいうような大胆な金融緩和政策や機動的な財政出動が、株高・円安と日本経済の活性化をもたらしているわけではない。そう、氏は断言するのである。

なお、アベノミクスの理屈のひとつに、金融緩和によるインフレ期待論というものがあるが、それも今回は全く確認できていないという。確認できているのは、金融緩和の結果、各銀行の日銀当座預金が積みあがっただけのことで、要するに、日銀がばらまいた金がそっくりそのまま日銀の金庫に戻ってきて死蔵されているだけというのだ。

アベノミクスは、金融を引き締めれば経済が縮小するのであるから、逆のことをすれば逆の結果が起こる、つまり金融を緩和すれば経済は拡大する、と思い込んでいる。しかしこれは馬鹿の思い込みだ。彼らは金融政策の非対称性というものをまったく理解していないのだ。彼らのやっていることは、紐を押すのと同じようなことで(紐を引っ張れば経済が縮小するなら、紐を押せば反対のことが生じるという思い込みだ)、戯画以外の何物でもない、というのである。

(そういわれれば、安倍さんも黒田氏も、マンガチックな顔つきに見えるね)




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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2014
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