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財政赤字は何故問題なのか:クルーグマン教授の経済入門


ユーロ圏の一部諸国におけるソブリン危機問題や、アメリカの政府債務支払い危機問題を通じて、財政赤字の問題が大きくクローズアップされた。日本もその例外ではないので、このまま放置しておくと大変なことになるから、いまのうちに消費税を増税して、財政赤字を解消する努力をしなければならない。それができなければ、日本は市場によってアウトを突きつけられ、やがて破滅の道をたどることになるだろう。こんな半分脅迫ともいえる論調がまかり通っている。

財政赤字とは、いったいどれくらい深刻なものなのか、クルーグマン教授に聞いてみた。すると、それなりの見解は示してくれるのだが、頭の働きが決して滑らかとは言えない筆者などには、今一つよくわからない。

クルーグマン教授は、財政赤字が問題になるのは、二つの理由による、という。ひとつは、政府として破産する危険性があるからということ、もうひとつは、財政赤字は経済にとってマイナスの副作用をもたらす恐れがあるということだ。

前者の理屈は納得できるような気がする。政府の金庫が空になって、借金漬けになったら、そのうち首が回らなくなって、破産するだろうということは、個人の浪費家の場合と何ら変わらないように思えるからだ。実際、ユーロ圏の危機の発端となったギリシャなどは、政府が放漫財政を行って自転車操業に陥り、借金を返すための借金ができなくなるような事態に陥ったことで、一気に深刻な危機を引き起こしたわけだから。

一方、マイナスの副作用とは何だろう。クルーグマン教授は、財政赤字は国としての貯蓄の大きな部分を干上がらせるから、国としての貯蓄率も下がる、その結果経済成長も鈍化する、そんな意味のことを言っている。

しかし何故財政赤字になると、国としての貯蓄が減るのか。そこのところがしっくりとしない。

国の貯蓄率というのは、国内の純投資と対外純投資の合計として考えることができる、と教授は言う。だから、国の貯蓄率が下がると、国内の純投資と対外投資も下がる、と教授は言う。

しかし、この言い方はトートロジー(同義反復)ではないだろうか。それにこの言い方では、何故国の貯蓄率が、財政赤字によって下がるのか、その関連性が説明されていない。だから財政赤字を何とかするためには国の貯蓄率を上げる以外にない、といわれてもピンとこない。

筆者が良くない頭で考えるには、クルーグマン教授がいう財政赤字とは、国際収支の赤字のことを言っているのではないか。たしかに国際収支が赤字になれば、国の貯蓄率は減る。それは、当該の国民が未来の支出を犠牲にしてでも、現在の支出を楽しみたいと考えていることの裏返しだ。

もっとも今となっては、国の貯蓄率云々といった議論は脇へ吹き飛んで、政府が目前に迫った債務の履行を無事にできるのかどうか、そうした差し迫った状態に、多くの国が陥っている。

こんな状態では、デフォールトを切り抜けるためには、思い切った財政改革が必要だとか、または、いっそデフォールトをしたうえで、財政赤字の原因となっている膿を吐きだし、財政をリセットすべきだとか、極端な議論が横行するようになるわけなのだろう。




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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2013
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