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小野善康の経済理論:成熟社会の経済学


小野善康の経済理論の特徴は、経済理論を資本主義一般に対して没歴史的・抽象的に適用するのではなく、資本主義経済を成長期と成熟期とにわけたうえで、それぞれに適用すべき経済理論には相違があることを指摘することにある。ケインズ経済学を含めた従来の主流の経済理論は、成長期の資本主義経済を前提としていた。成長期の資本主義経済には、供給が需要を作り出すというセーの法則が基本的に成り立つ。ところが、資本主義経済が成熟期に達すると、需要がネックになって経済全体が発展する勢いを失う。その根本的な理由は、社会が豊かになって人々の消費意欲が頭打ちになることである。そういう時代には、人々は物の購入より、金をためることに熱心になる。ものへの欲望には限度があるが、金への欲望には限度がないからである。

そうした時代においては、ケインズを含めた従来の経済理論では対応できない。小野はそうした時代を成熟経済の時代と呼び、それに対応できる経済学を「成熟社会の経済学」と呼ぶ。

「成熟社会の経済学」の基本的な特徴は、社会全体の需要拡大を強調するところにある。需要が根本的に拡大するためには、社会全体を変貌させるようなイノヴェーションが必要であるが、短期的な景気対策としての需要拡大も意味がある。それは、市場には期待できないから、政府がその需要を創出せねばならぬ。そういうわけで小野善康の経済理論は、政府の役割に大きな期待をかけるものである。

小野は、資本主義経済に対して批判的な視点を持っているが、しかしマルクス主義経済学者のように資本主義以外に未来を求めることはしない。あくまでも資本主義システムを前提としたうえで、いかにそれをうまく延命させることができるか、ということに対して学問的な努力を払っている。


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