知の快楽 哲学の森に遊ぶ
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マネー資本主義の行方


マネー資本主義という耳慣れない言葉を使って、NHKが今回の金融危機の背後に潜む病理に光を当てていた。

そもそも資本主義経済はマネーで成り立っているシステムだ。人々の経済活動はマネーを通じて実現される。人々は自分の経済的な意思をすべてマネーに託して経済活動に参加するというのが、資本主義の基本原理だ。だからマネーと資本主義とは、今日では同義語というに近い。それをことさらに並列させて、マネー資本主義ということには、特別な意図があることを感じさせる。

今回の金融危機が、野放図なマネーゲームの破綻に起因していることは、大方の経済学者が一致するところだ。では何故野放図なマネーゲームが横行し、それが資本主義というシステム全体を揺るがすにいたったのか。ここのところについては、まだ確固として共通理解ができているとはいえない。

NHKはそれを、マネーの暴走とその自己目的化にあったと見ているようだ。本来資本主義を成り立たせるべきマネーが、資本主義の実体経済を突き破って自己増殖した、その結果が今回の危機をもたらしたという見方だ。

こうした見方に立てば、今後資本主義がますますグローバル化していくと予想される中で、マネーの流れをいかに制御するか、その如何によって、実体経済の、したがって資本主義の行方も左右される、そうした問題意識が出てくることは見やすい道理だ。

コロンビア大学のスティグリッツ教授などは、資本の動きが国際化する趨勢の中で、金融政策が各国ばらばらでは、今回のような金融危機は繰り返し起こるだろうと予想している。だから金の流れを国際的にコントロールする必要があると強調している。究極的には、世界通貨のようなものを展望している。

マネーゲームというのは、一方ではだぶついている金があり、他方ではその金をおもちゃにしてゲームが成り立つような装置があるから流行るものだ。こうした事態は、近年になって始めて生じてきた。その背景には資本の国際化があるとともに、各国の金融システムにゲームをゆるすような隙間があったことがある。

ヘッジファンドなどは、この隙間に食い込んで、虚構の利益を上げてきた。虚構というのは、自らは実体経済の拡大になんら寄与することなく、むしろ実体経済を食い物にして、あげてきた利益だからだ。

それは資本主義本来の姿から外れている。資本主義が優れたシステムとして機能できるゆえんは、それがトータルとして、実体経済の拡大をもたらし、人々の生活を豊かにできるからだ。

マネー資本主義とも呼ぶべき今日の資本主義のありかたは、資本主義本来の姿から逸脱している。NHKが使っていたこの言葉には、そんな断罪の意味合いが読み取れた。




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