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拡大するユーロ危機:ドイツ国債の札割れ


ドイツ国債の入札に際して40パーセントもの札割れが生じ中央銀行がその部分を買い取るという事態が起きた。ドイツ国債と云えばユーロ圏のみならず世界でも最上位の安定ぶりを誇ってきたので、この事態はユーロ危機がドイツにも及んだかと、深刻な懸念を与えたかにみえた。

だが事態を良く分析すると、ドイツの国債は超低金利水準が定着し、今回の入札でも実質2パーセントの金利となっていた。これではインフレによる損失も吸収できないと見た投資家が、購入をためらったというのが真相のようだ。

といって、そう楽観視してばかりもいられまい。ギリシャに端を発したソブリン危機は、イタリアやスペインと云った経済規模の大きい国まで波及し、イタリア国債の利回りは危険水準と云われる7パーセント周辺で高止まりしている。ドイツと並んでユーロを支えてきたフランスも盤石ではない。

こうなってしまった原因は、危機に対して素早い対応をとろうとしてこなかったユーロ圏指導者たちの政治的無責任に帰されるのだろうが、その無責任の中でもっとも厄介なのは、国が債務返済の責任を果たさないという事態、つまりデフォールトの可能性が、いまや現実味を以て受け止められる事態に至ってしまったことだ。

第二次大戦後の金融の歴史の中で一流といわれる国家がデフォールトを起こしたことはない。国際金融システムもそうした事態を当然の前提として成り立ってきた。しかし、ギリシャ危機を巡って、その救済策の一環として事実上のデフォールトが行われた。ギリシャ国債を保有する金融機関に対して、債務軽減策として50パーセントの放棄を求めたのだ。

金融機関は国債を購入するときには、リスク分散策としてCDS(クレヂット・デフォールト・スワップ)などの保険商品を購入している。万が一デフォールトの危機に直面しても、国債を売らずにリスクをヘッジできると期待してのことだ。ところが今回のギリシャ危機ではこの期待が全く裏切られた。金融機関は無条件で債権の半分を放棄させられ、リスク・ヘッジもへったくれもないといった事態に直面させられたのだ。

イタリアやスペインの金利が急上昇したのは、ギリシャと同じような事態に巻き込まれかねないと、投資家が判断した結果だ。

現実化したデフォールトへの嫌悪感が、国債市場全体への不信感につながったとみてよいだろう。

ドイツ国債の札割れと云った事態にも、こうしたメカニズムが強く働いているとみておく必要があろう。




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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2013
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