知の快楽 哲学の森に遊ぶ
HOMEブログ本館東京を描く英文学ブレイク詩集仏文学万葉集漢詩プロフィール掲示板


ギリシャのユーロ離脱は何をもたらすか


G8はギリシャが是非ユーロに留まるよう異例の熱いメッセージを発したが、本当にそう思うのなら、ドイツや北欧圏の豊かな国々が、救いの手を差し伸べねばなるまい。口先だけでは、物事は進まないからだ。もし、必要な救済措置が取られないようなら、ギリシャのユーロ離脱は不可避となるだろう。そうなった場合に果してどんな事態が待ち受けているか、さまざまなシミュレーションがなされている。筆者も、筆者なりのシミュレーションをしてみた。

ギリシャ政府は、前触れもなく突然、政府によるあらゆる決済をユーロではなくドラクマで行うと宣言する。公務員の給与をはじめ、政府による支払いや経済活動に伴う決済がドラクマで行われる。政府が対外的に追っている債務の返済もドラクマで行われる、そう宣言するわけだ。

この結果何が起こるか。まず、ドラクマはユーロに対して暴落するだろう。紙くず同然とは言わないまでも、その貨幣価値はユーロに対して半分くらいにまで減価するかもしれない。そうなれば、ギリシャ国内は猛烈なインフレに見舞われるだろう。ギリシャは、食料品をはじめ、生活に必要な物の大部分を輸入に頼っているからだ。それらの値段が一斉にあがって、物価水準が高くなる結果インフレになるというわけだ。

一方、ギリシャに金を貸している外国銀行は、デフォールトに見舞われるだろう。その結果、倒産する銀行が沢山現れるだろう。というのも、ギリシャのデフォールトによってある銀行が破たんすると、その銀行と取引関係のある他の銀行に連鎖し、ドミノ現象のような多発倒産が予想されるからだ。ドイツやフランスの銀行も安泰ではいられないだろう。いまではどの銀行も巨額の金融デリバティブを抱え込んでいるとみられているが、それがギリシャのデフォールトをきっかけに一気に不良債権として表面化し、銀行の倒産をもたらすだろうからだ。

しかし、ギリシャの苦境は永遠に続くわけではないだろう。アイスランドやアルゼンチンのように、過去に金欠病で倒産した国も、数年後には見事に復活した。ギリシャもそのように、いずれは復活するだろう。

というのも、通貨の切り下げによって、輸出に有利な状況が生まれるからだ。アイスランドやアルゼンチンの場合には、相対的に安くなった農業製品が売れるようになり、それをきっかけにして、財政の立て直しができた。ギリシャの場合には、ユーロ時代に輸出できるような産業はことごとく消滅したと言われているが、唯一観光資源だけは無傷で残されている。かりにドラクマが半額になれば、海外からの観光客は一気に倍増し、ギリシャは観光国家として、意外に早く立ち直るかもしれない。

もしも、ギリシャが意外に早く立ち直り、しかもそれによって国民が政府を評価するような事態が起きたらどうなるか。他の国、たとえばスペインやポルトガルも追随するかもしれない。国民に痛みを強い、その恨みを買うよりも、早々とユーロから離脱したほうが賢明かもしれない、スペインやポルトガルの為政者がそう考えるようになる可能性は十分にある。

それにしても、ユーロからの離脱直後には、経済は大混乱し、国民生活は破滅的な様相を呈するだろう。また、ドラクマに切り替えるタイミングが悪いと、ギリシャ国民がユーロ預金を引き出して、外国の銀行に預け替えをしたり、そのまま現金で持つ動きが一気に強まり、そのあおりを受けて、ギリシャ中の銀行という銀行が、取り付け騒ぎで倒産するかもしれない。いずれにせよ、悪夢を避けては通れないだろう。




HOME経済を読む世界経済を読む






作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2013
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである