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佐藤唯行「アメリカ・ユダヤ人の経済力」


本書はアメリカ経済におけるユダヤ人の力について分析したものである。ユダヤ人はアメリカの人口の2パーセント余を占めるに過ぎない。にもかかわらずアメリカ経済を実質的に牛耳っているといわれることがある。それは本当か。というような問題意識から書かれたものだ。結論としては、ユダヤ人はアメリカ経済を支配するほどの実力までは持っていないが、一定の分野では圧倒的なシェアを誇っており、全体的に見てもかなりな力を発揮しているということだ。著者は、アメリカのユダヤ人とイスラエル国家との関係についてはほとんど触れていないが、アメリカ経済におけるユダヤ人の実力が、アメリカの政治に影響力を及ぼし、それがイスラエルのユダヤ人国家を中東の大国にしているのだろうと推測できる。

アメリカで経済的成功をおさめたユダヤ人には二つのルーツがあると著者はいう。一つはドイツ系ユダヤ人、一つは東欧系ユダヤ人だ。ドイツ系のユダヤ人は19世紀にアメリカにやってきて、投資銀行の分野で大きな成功をおさめた。ゴールドマン・サックスやソロモン・ブラザースを始め、巨大投資銀行をユダヤ人たちが支配している。業界全体のシェアは三割から四割に及ぶのではないかという。ユダヤ人がこの分野で成功したのは、ヨーロッパのユダヤ人との間で、信用上の結びつきがあったことが働いているということらしい。一方商業銀行の分野ではワスプが支配している。そのほか、百貨店などの小売業界、新聞、広告の分野でもユダヤ人の支配力は大きい。ニューヨーク・タイムズはユダヤ人によって経営されて来たという。

東欧系ユダヤ人は20世紀以後にアメリカにやってきて、周縁的な産業分野でめざましい活躍をした。20世紀産業といわれる映画は、メジャーのほとんどをユダヤ人が支配した。映画と並んで20世紀に興隆したラジオ・テレビの分野でもユダヤ人は支配的だ。三大ネットワークはみなユダヤ人が支配している。著者は触れていないが、映画や放送を支配しているということは、アメリカの世論に巨大な影響力を行使できるということだ。その影響力を行使して、ユダヤ人はアメリカ社会をイスラエル贔屓に導いていると考えられる。

もう一つ東欧系ユダヤ人の得意な分野は不動産業だ。ニューヨークの不動産は大部分がユダヤ人によって動かされているという。近年はトランプのような非ユダヤ人も不動産分野に進出しているが、やはりユダヤ人のもつシェアは圧倒的ということらしい。トランプのユダヤ贔屓は有名だが、それは日頃商売を通じて深い付き合いがあるからだろう。

商業銀行や重化学工業といった基幹的な分野においては、ワスプの力が圧倒的で、ユダヤ人はあまり目立った活躍はしていない。こうした伝統的な分野はワスプが抑えており、ユダヤ人が入りこむ隙はないという。

この本が書かれたのは1999年のことで、21世紀に入って爆発的な展開を見せたIT産業は触れられていない。その分野でも、フェイズブックを創業したザッカーバーグのようにユダヤ人はあいかわらず活躍している。要するにユダヤ人は、アメリカ産業の周縁的な分野とか新興の分野に深く食い込んでいるのである。

世紀の代わり目頃に、金融ビジネスが爆発的な発展をみせたが、それをリードしたのもユダヤ人たちだった。かれらは企業乗っ取りとかヘッジファンドなどの分野で大きな活躍ぶりを見せ、ウォール街のビジネスを牽引したということだ。その反面リーマンショックを引き起こしたのもユダヤ人だった。いまやユダヤ人は、世界の経済を大きく動かすファクターになっているわけである。

著者は、ユダヤ人のやり方に日本人も見習うべきだという。ユダヤ人は日本人に似ている面もあり、日本人が師匠とするにふさわしいというのである。




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