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強まるEUへの不信




上のグラフ(Eurobarometer をもとにGuardianが作成)は、EU加盟六か国における、EUへの不信の割合を示したものだ。2007年と2012年のデータが示されているが、すべての国でこの5年間に不信の割合が上昇していることが読み取れる。それも単なる上昇ではない、大部分の国では、不信が信頼を大きく上回り、全体の半数以上を占めている。このことは、いまやEUそのものが、存続の危機を感じさせるほどに、各国の民衆から見放されているということを意味する。

なぜ、こういう傾向が強まったのか。最大の要因は、ユーロ危機を背景に、財政危機、政府の支出カット、失業率の上昇と言った事態が慢性化し、それに対してEUが適切に対応できないばかりか、むしろ各国の苦境を更に深刻化させているという認識が広まったことだろう。

自分の国の主権がEUによって大幅に制限され、危機に対して適切かつ迅速に対応することが出来ない。その結果国民生活はますます深刻化する。その悪循環をもたらしているのが、ほかならぬEUだ。EUこそまさに、国民生活危機の元凶ではないのか。そうした疑念が、各国の国民の間に強まっているのだろう。

このグラフをみてまず気づくのは、イタリアやスペインなど、かつてはEUへの支持が高かった国で、不信が急速に上昇したことだ。こうした国々では、深刻な債務危機を克服するために、大幅な緊縮政策をブリュッセルから求められている。それが国民を更に窮乏に追いやっている。そのように受け取られている。

イギリスは伝統的にEUへの不信が強い国柄だったが、それにしても7割の国民がEUへの不信を強めているのは尋常ではない。EUの優等生である続けているドイツでさえ、不信は急速に上昇している。もっともドイツの場合には、南の放漫財政のツケを自分たち北の勤勉な国が払わされているといった不満が働らいているのだと思われる。

このような世論の変化を背景に、EU不要論を唱えるポピュリスト政党が勢いを増してきている。先日のイタリア総選挙でベッペ・グリッロが率いる「五つ星運動」が進出したのはその象徴的な出来事だ。

(参考)Crisis for Europe as trust hits record low By Ian Traynor:Guardian




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