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クローニー・キャピタリズム(Crony Capitalism)




英誌 Economist の最近号が、クローニー・キャピタリズム(Crony Capitalism)なるものについて、興味深い検討を加えている。Our crony-capitalism index Planet Plutocrat Economist

クローニー・キャピタリズムとは、文字通りに受けとれば、縁故がものをいうような不透明な資本主義ということになるが、ここでは、競争を排除して独占的な利益を追求するような経済活動を指している。独占的な利益を得るために、企業家たちは政府の役人を買収して、規制を緩和させたり実質的な補助金をせしめたりしようとする。そうした行動はレント・シーキング(rent-seeking)といわれる。日本語に訳すと、「たかり」とでも言うべき言葉になろう。

クローニー・キャピタリズムといい、レント・シーキングといい、こうしたことが蔓延してきた背景には、新自由主義的な市場万能の考え方が、グローバルな規模で席巻してきたことがある、とこの記事は分析している。いまや、世界規模で、資本家たちが無際限に利益を追求できるような体制が確立されつつある。その結果、先進国の資本家たちにとっては第二の(無制約な利益追求の)ブームが到来し、後発国では最初の大ブームが到来している、とこの記事は見ている。

上の表(当該記事から引用)は、先進諸国と後発国における、クローニー・キャピタリズムの進展度を現したものである。クローニー・キャピタリズムは、少数の資本家への富の集中をもたらすことから、このインデックスは、まずビリオネアへの富の集中度をあらわし、併せて、そのうちのクローニーな分野(不透明な経済活動の盛んな分野)の寄与度をあらわしている。

もっとも極端なのは香港である。国富の八割近くがビリオネアの手に集中し、六割近くがクローニーな分野で生まれている。香港は土地が狭いことから不動産が特別の価値を生み、その不動産の取引において、企業家と政府との不透明な結びつきがものをいう、という実態を反映している、ということのようだ。

ロシアやウクライナのクローニー度が高いのは、社会主義経済の崩壊に伴って、国営企業が私人に大規模に移転したことを反映しているということらしい。逆に中国のクローニー度が、表面的には低くなっているのは、国営企業の占める割合が高いことをあらわしているということらしい。

アメリカは、富の集中度は高いが、クローニー度は低い。アメリカの場合には、IT産業を中心に民間産業の勢いが強く、それがこのような結果につながっているのだと思われる。

こうして比較してみると、日本が非常に優等生であることが明瞭に浮かび上がる。日本は、富の集中度が最も低い。クローニー分野の寄与度はゼロに等しい。これは、日本がいまのところ、世界でもっとも格差が少なく、透明度が高い社会だということを物語っている、ということのようだ。

小泉政権以降、格差をもたらそうとする動機が強く働いて来たにかかわらず、他の国に比べれば、まだそんなに格差は拡大していない、と言える。しかし、安倍政権は、金持優遇税制の導入などを通じて、ビリオネアへの富の集中を加速させようとする動きを示している。また企業家の中には規制の排除や政府による労働破壊を露骨に求める動きもある。そうした動きが強まれば、日本もいずれは、アメリカ並みの格差社会になるだろうことは、ほぼ間違いないだろう。




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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2014
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