知の快楽 哲学の森に遊ぶ
HOMEブログ本館東京を描く英文学ブレイク詩集仏文学万葉集漢詩プロフィール掲示板


サミュエルソン金融危機を語る:行き過ぎた規制緩和への批判


朝日新聞が著名な経済学者ポール・サミュエルソンから、今回の金融危機の原因について聞いた(10月25日朝刊紙上)。見出しに「規制緩和と金融工学が元凶」とあるように、サミュエルソンは今回の危機の原因が、ブッシュ政権下の行き過ぎた規制緩和と、加熱したマネーゲームの横行によるものと見ている。

サミュエルソンといえばケインズ派経済学の流れを汲む最後の巨人であるから、今回の金融危機を、規制緩和や金融の自由化を推進してきたサプライサイド・エコノミクスの破綻と見ていることは自然といえる。朝日新聞がいまさらながらこの老学者を引っ張り出した意図は別にして、そのいうところには耳を傾けるに足るものがある。

サミュエルソンはサプライサイド・エコノミクスを進めてきたブッシュ大統領に手厳しい言い方をしている。ブッシュが旗印に掲げた「思いやり保守主義」とは、億万長者に対して優しく、中流以下の人々には優しくなかった。その結果現在のアメリカでは格差が拡大し、中流以下の人々は脅威にさらされるようになった。イラク戦争と並んでこれがブッシュ政権の不人気の理由であり、ブッシュは「米国の歴史において最悪の大統領として名をとどめることになるだろう」とまで言い放っている。

サミュエルソンは、このサプライサイド・エコノミクスを最初に推進したレーガンにも言及し、彼は映画俳優としては悪くなかったが、大統領としては極右路線をとったと批判している。それがブッシュに引き継がれ、「悪い規制緩和」や「無能な人物の登用」によって、経済をがたがたにしてしまったというわけだ。

サミュエルソンは、レーガンによる右傾化の背景には、民主党のジョンソン政権下で進められた黒人の公民権保護など、リベラリズムの行き過ぎへの反動があったと見ている。

リベラリズムは財政の出動によって、国民の間のバランスを追求しようとする傾向がある。それに対してレーガンは、黒人に反発する中流以下の白人の心情に訴えかけながら、財政出動を抑える一方、サプライサイドの経済運営を拡大してきたと見ているのだ。

サミュエルソンは、今回の危機を克服するためには、大規模な財政出動が必要だとしている。経済学者が「ヘリコプターマネー」といっているような、ばら撒きに近い財政支出が必要だというのだ。彼は大恐慌時代を乗り切ったルーズベルトを引き合いに出しながら、有益な分野に金を注ぎ込むことが経済の建て直しと雇用の確保に結びつくと主張する。ケインズ派の流れを汲む学者としては、定石に従った処方箋だろう。

なお先日ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンも、財政出動を強調する点ではサミュエルソンに近い立場に立っているといえる。




HOME経済を読む






作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2013
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである