知の快楽 哲学の森に遊ぶ
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内田樹、高橋源一郎「ぼくたち日本の味方です」


内田樹と高橋源一郎の対談集「ぼくたち日本の味方です」に収められた対談がなされたのは、2010年11月から2012年2月にかけてだから、丁度民主党政権の時代に重なっている。この対談は政治色の強い雑誌「SIGHT」のためになされており、また、内田も高橋も日頃から政治的な発言にコミットしているので、勢い政治的なメッセージが強い対談なのだが、政権に対してあまり批判的でないのは、民主党が政権を担当していたからか。この期間は3・11を挟み、日本の政治の問題点が露呈したこともあったわけだが、両人はそれを、民主党の問題というよりも、日本政治全体が劣化していることの現れと捉えている。要するに、民主党には甘いのである。

二人が民主党に厳しくなるのは、民主党が自民党と同じような体質振りを発揮する時である。民主党が自民党と同じ穴の狢だと思わせるのは、民主党が成長信仰を抜けられない時だ。彼らも自民党の議員と同じように、日本は永遠に右肩上がりで成長すべきだと考えており、成長が停滞したり、ましてや後退したりということは、到底考えられない。だから、原発も経済成長の為には必要だということになる。経済成長が止ったり、人口が減少する事態は、日本にとって危機的な事態だと頭から信じている。

しかし、本当にそれでよいのか、と内田らは疑問を呈する。日本はもはやこれ以上右肩上がりで成長するのは望めないし、人口が減少する一方なのは、避けられない趨勢だ。そうした趨勢に対して、無理に抵抗するのではなく、いかにそれに適応するかを考えるのが本物の政治家ではないのか、そう二人は言うのである。

日本の人口が減少するのは、日本の民主主義にとってもよい、そうとまで二人は言う。民主主義が理想的に機能するのは、せいぜい人口6000万人規模の国においてだというのだ。西欧の国はいずれも6000万人以下の規模である。アメリカのことに二人は触れていないが、中国については、14億の国民を民主主義で統治できるは訳がないと言っている。日本は1億3000万人いるが、これは民主主義が成立する上では多すぎる人口だ。だから今後日本の人口が減少していくことは、少なくとも日本の民主主義にとっては良いことなのだ。

とまあこんなふうに二人は言うのだが、そうでも言わなければ、日本の今後の人口減少について、もっと冷めた目で検討してゆく余裕が持てないでしょう、と言っているかのようである。

民主党の政治家については、たとえば野田佳彦について、「こんなのんきな政治家でも統治できるくらい日本の制度は堅牢なのです」と思いたい願いが彼を選ばせたのであろうと、いささかシビアな評価をするとともに、「あまり頭のよくない善人が、この国難の時期に国政の舵取りをすること」の危うさについて、不安を表明している。




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