知の快楽 哲学の森に遊ぶ
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プラトンの自然哲学:ティマイオスと宇宙創生


プラトンはイオニアの自然哲学者たちのようには、自然に大きな関心を持つことがなかった。かれが自然を問題として取り上げるときには、つねにイデア、つまり理性的な存在者との関連のもとに考察する。自然はそれ自体では、自足し完結した存在ではなく、イデアの似姿としてのみ意義を持ちえたのである。

プラトンの対話編の中で、自然をテーマにしたものは「ティマイオス」である。これは「国家論」の要約から始まっているように、プラトンの最晩年に書かれたものである。アトランティスの神話への言及に続き、どのようにして宇宙が創生されたかについて語る。その中にプラトンの自然哲学が展開されるのであるが、一読してわかるとおり、論旨はきわめて難解で、どこまでが神話で、どこからが哲学的な考察なのか、判然としないところが多い。

実は、この著作は中世ヨーロッパでは、プラトンの代表的作品とされていた。プラトンの多くの対話編が伝わらなかったなかで、この作品はキケロによってラテン語に翻訳され、多くの人びとに読まれたからである。そんなことから、中世のヨーロッパ哲学に及ぼした影響には大きなものがあった。プトレマイオスに代表される、中世の静的な宇宙のイメージは、この対話編に示されたプラトンの思想を敷衍したものともいえるのである。

この対話編では、他の対話編でソクラテスの果たしている役割をティマイオスがつとめている。ティマイオスはピタゴラス学徒であり、その語るところにはピタゴラス主義の色合いが強い。宇宙を数と関連付けて説明するところなどはその典型であり、魂の不死と転生など、ピタゴラス派独自の霊魂観も反映されている。

ティマイオスの語るところによれば、またプラトン自身にとってもおそらく、宇宙は創造主によって創生されたものである。今日あるような世界が創生される以前、そこには無ではなく、三つのものがあった。創造主としてのデミウルゴス、永遠の原型としてのイデア、そして混沌として形のない塊である。デミウルゴスは、イデアと混沌の塊を結合させて世界霊魂をまず作った。これは世界に秩序と運動をもたらすところの動的原理である。デミウルゴスはこの動的原理を用いて、混沌に形を与え、宇宙を恒星天と遊星天とに分割し、それらをさらに分割して、さまざまな星座に分けた。こうしてわれわれ人類が眼にするような宇宙の姿が出来上がる。

このように、プラトンの宇宙創生の考え方は、混沌に秩序を与えて形あるものを作り出すというものである。これは世界を形相と質量、イデアと現象とに分けるプラトン特有の考え方を反映したものだ。ユダヤ人やキリスト教徒にとっては、世界は創造主が無から作り出したものとする考えが優勢であるが、プラトンの思想はそれとは大きく異なっていたのである。

こうして出来上がった世界の姿は、デミウルゴスが善の似姿として作ったものであるから、そこにはすべてのものが包括されており、したがって唯一つしかないものである。しかしてその形状は球である。なぜなら球体こそがもっとも完全な形であるから。また世界の運動は円運動である。円運動こそが自己完結した完全な運動であるからだ。

世界を構成する質量には、火、空気、水、土の4種類があげられるが、それらは突き詰めると数のある要素に還元される。その要素とは三角形である。三角形には正方形の半分である三角形と、二等辺三角形の半分である三角形がある。(と、ティマイオスはいう。)それらの三角形は、組み合わさることによって正多面体を作る。この多面体がそれぞれ上の四元素のもととなるのである。すなわち、土の原子は立方体であり、火の原子は四面体であり、空気の原子は八面体であり、水の原子は二十面体であるといった具合だ。(正多面体にはこのほか、正五角形からなる十二面体がある)

また、デミウルゴスは昼と夜の区別ができるように太陽を作った。この太陽の運行を見て、人間は数や時間についての知識を得るようになった。時間の概念は、天体の運行と深く結びついているのである。

デミウルゴスはまた、世界に四種類の生き物を作った。神々、空を飛ぶ鳥類、水中を泳ぐ魚類、陸上に生きるものたちである。不死なる神々をこの中に加えているのは不思議に思えるが、ギリシャ人にとっては、オリュンポスにすむ多くの神々は、身近な存在であったのだ。デミウルゴスはこれらの神々をも滅ぼすことができたのだが、そうはせずに、他の動物たちの死すべき部分を作ることをゆだねたのであった。

このように、プラトンの宇宙創生説は、きわめて目的論的な色彩が強い。しかしてその観念には、世界を理性的に解釈し、秩序と調和と美に満ちた有機体としてとらえようとする傾向が顕著である。こうした目的論的世界観は、中世人の世界像に大きな影響を及ぼすのである。





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