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ハンナ・アーレントの政治思想


ハンナ・アーレント(Hannah Arendt)は、ユダヤ人としての自分のアイデンティティに生涯こだわった思想家である。彼女の思想は、ユダヤ人としての過酷な体験と深く結びついている。というのも彼女は、ナチスによるユダヤ人迫害という未曽有な事態を経験し、そこから何故同じ人間が他の人間に対してかくも残酷になれるのか、自問自答せざるを得なかったからである。彼女はその自問自答の中から、全体主義が個人としての人間を破壊するプロセスを必然的な傾向としてえぐり出した。そしてそうした全体主義とは、歴史の逸脱などではなく、一定の条件のもとではどこでも起こりうるものだと考えるに至った。その条件の最大のものは大衆社会の進行である。彼女は大衆社会がいかにして全体主義を育むかについて、徹底した分析を行った。

アーレントはまた、革命についてもユニークな議論を展開した。革命と言えば市民革命が思い浮かび、近代化にとっての巨大な原動力となったとの評価が一般的であるが、アーレントはそうした評価に異議を唱え、革命と戦争とは暴力を母胎とする双生児のようなものであり、したがってなくてすませる方がずっとましだというふうに考えた。

ハンナ・アーレントがこのように考える背景には、現代ヨーロッパ文明に対する深い疑問があったのだと思われる。全体主義は、そもそも現代ヨーロッパ文明の必然的な落とし子なのではないか。そして、ヨーロッパの近代革命なるものは、そうした現代ヨーロッパ文明を用意したものなのではないか。そういう風に考えたのだろう。

現代ヨーロッパ文明とは、キリスト教文化の落とし子としての側面を持っている。ユダヤ人としてのアーレントは、ナチスによる同胞のホロコーストを見るにつけても、それを用意した最大の要因としてキリスト教的な文化を考えたのではないか。だからアーレントは、キリスト教的な文化に対立するものを自分の思想的な基盤として持ち出さざるをえないように感じたのではないか。そこで、ギリシャ的なものが、当面の彼女の参照軸となった。彼女はギリシャ的なものを立てることで、キリスト教的なものを徹底的に相対化したかったのではないか。

このようにハンナ・アーレントの政治思想には、ヨーロッパ思想の伝統から大きくはみ出たところがある。ここでは、そんなアーレントの思想のユニークさについて、読み解いていきたいと思う。



人間の条件:アーレントの政治思想
アーレントとマルクスの労働観
公的領域と私的領域:アーレントの政治思想
アーレントの世界疎外論
ハンナ・アーレントの革命論
ハンナ・アーレントのベンヤミン論

矢野久美子「ハンナ・アーレント」を読む



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